下山の時厄介なのがゴーグルです。
最後のアタックは深夜にスタートしますので暗闇の中では
ゴーグルは要りません。でも下山の時には明るくなりますので
ゴーグルをかけないと紫外線に目がやられ雪盲症になり目がまったく見えなくなります。
それが酸素マスクからの息ですぐ曇ってしまい足元が見えなくなります。
ゴーグルが見えなくなればすぐ拭かなければなりませんが、それがなかなか大変です。
もう少し我慢して頑張ろうと思ったとたん古いロープにアイゼンが引っ掛かり転倒して
しまいました。幸い怪我もせず、滑落もせずすみましたが、背筋がぞっとしました。
一昨年前、アメリカの若い登山家がこのルートで下山中遭難しました。
ゴーグルがよく曇るので面倒だと思い、いっそのことゴーグルを外しておりました。
20分ぐらいははっきり見えるから調子よくおりましたが、そのうちだんだん見えなくなり、
しまいには全く見えなくなりました。目が見えないというのは死を意味します。
登山ルートに横たわっている遺体を多く見てきた若者は覚悟を決めました。
上り下りの登山者に無残な姿を曝されたくないと決めた若者は下の谷に向かって飛び降りました。
しかし、リュックがロープの固定フックにひっかり崖に吊るされてしまいました。
エベレストでは一つ間違えば戻らぬ人になってしまうのです。
このことを思い出した私ははっと我に戻り、いくら面倒でもゴーグルが曇りだしたら
すぐ足を止めゴーグルを拭き、曇りが消えるまでまって再スタートしました。・・・ ・・・(つづく)