山の博士、Tさんこと高井伸子さんです。
花や植物の名前名前だけでなく登山に関しても豊かな知識と経験をもっていますが、
私が高井さんに惚れ込んでいるのは高井さんの人間力です。
面倒見がよく腰が低く明るくて優しい山の先輩で、私の山歩きの手本でもあります。
上の写真はふれあい山歩こう会10周年記念写真展に展示された高井さんの作品ですが、
今日は高井さんの植物名に関するエッセイを紹介します。
「羅生門かずら」 高井のぶ子
「この花の名前を教えて下さい」と、山の若い仲間からラインで写真が届いた。
シソ科の青い花だ。「ラショウモンカズラ。シソ科の多年草です。
羅生門で斬りおとされた鬼女(おに)の腕になぞらえてのネーミングだそうです」
と送ると、「おもしろいですね」と返ってきた。
植物の名前は由来を知るとおもしろい。
何故こんな名前が付いたのかと興味がわいてくるものが多い。
子どもの頃に「雪割り草」だと、母から教えられていた青い星のような愛らしい
花の学名が「オオイヌノフグリ」だと知った時は、「ええっ、なんでそんな酷い名前を!」
と、多いに憤慨したものだ。その種の形が犬の陰のうに似ていることからこの名前が
付いたらしい。
日本の植物名の大半は、植物学の権威、牧野富太郎博士によって命名された。
博士は日本中を自ら巡って5万点以上もの植物を採集し、研究を重ね、1500種以上の
植物に名前を付けた。
命名は植物の花や種や葉っぱ、あるいは根茎からも付けられている。
さらに、発見された土地や発見者の名前が冠されていることもある。
植物を観察していくと、その命名に納得し、よくぞと感服するばかりだ。
時には、植生している環境も加わっていたりする。「ハキダメギク」もその一例だ。
「掃き溜め」は今の時代では、もはや死語となりつつある環境かもしれないが昔の
ゴミ捨て場のような場所といえば解ってもらえるだろうか。
また、見た目の感触からついたと思われるタデ科の「ママコノシリヌグイ」や
「アキノウナギツカミ」などはトゲトゲの茎の形態をみれば、さもありなんと頷いてしまう。
「雑草という草はない」とは博士の残した名言である。博士の植物への深い愛情を感じる
言葉だ。個々の植物にそれぞれの個性があり、存在理由があることを教えられた。
「ラショウモンカズラ」は渓流沿いなどの湿り気のある木陰に、数あるシソ科の中でも
比較的大きな花を咲かせる。青い花の形から、斬りおとされて羅生門の前に転がっていたと
いう鬼女(おに)の腕を想像するとは、牧野博士は広い見識と豊かな想像力の持ち主であった
ことが窺える。
はてさて、鬼女(おに)は青鬼だったのだろうか、なんて、野暮な質問ですよね、博士。
短歌に興味を持っていたその頃、五七五五の短歌調で詠って覚えた。
渡辺の綱に斬られし鬼女の腕 ラショウモンカズラ シソ科 多年草 のぶ子
植物名に全く素人の私でもなるほどと感心感動の連続でした。
吊り鐘人参、蔓仙人という珍しい名前も高井さんから教えてもらったものですが、
高井さんのエッセイと締めくくりの短歌からも万葉の歌と万葉の草花に対する
高井さんの造詣深さがうかがえますね。