エベレスト登頂には運が欠かせません。
いくら順応訓練がうまくいったとしてもアタックの時に天気が
荒れていたら万事休すです。
皆さんご存知の野口健さんも三度目の挑戦で登頂に成功しています。
そこで各パーティーは天気の情報収集にかなりお金と神経を使っています。
われわれのチベット聖山探険隊はスイスと地元チベットの衛星天気予報を
買っていましたが、それが小さなパーティーだと経済力がなく買えないわけです。
いつもわれわれなど大きなパーティーの動向を偵察しています。
我々にとってはそれが却って厄介ですから情報をぜったい洩らさないようにしています。
登頂アタックにおいては我々の前を他の登山隊が登ることを嫌っています。
と申しますのは、8500m以上のところで一人止まってしまうと後ろの人が全員止まってしまうからです。
一人立つのがやっとのところで、あるいは断崖絶壁のところで人を追い越すというのは
命取りの無謀な行為の上に、場合によっては登頂をあきらめる羽目になるからです。
今振り返ってみたら、私たちのアタック出発はけっこう滑稽なものでした。
5月16日朝緊急会議があり、吹雪のためアタック出発は一週間後になるとのことでした。
衛星電話で一人2分ずつ国の家族に連絡を入れました。
それが夜もう一度緊急集会があり、17日の明日アタック出発だそうです。
ひょっとしたら今年は良い天候に恵まれないかもとみんなしょんぼりしていたムードが
一気にあわただしい緊張ムードに変わりました。
朝から偵察に来る人には出発は一週間以降だと気をゆるませるリーダーの策でした。
表題の写真は出発前の安全祈願のブージャ儀式ですが、いつもに比べたら静かな方です。
写真の右奥の雪煙に隠れているのがエベレスト山頂です。
他のチームが気づいた時に私達はすでに出発していたので、最後登頂を果たすまで
われわれの先を登った人はいませんでした。
今の日本の秘密保持法ではありませんが、エベレストアタックにおいても
情報を漏らさないことがどれだけ大変で大事かを身をもって教えられました。