前日の吹雪も弱まり、例の出発前のお祈り祭も無事にすました。
基地の皆さんの祝福を受けながら、7000mのキャンプ1を目指して
いざ出発です。
あまりの興奮で前夜はよく眠れませんでした。
6900mまでの長い雪の急斜面が容赦なく体力を奪っていきます。
チベットルートでは半分以上の挑戦者がこの急斜面の洗礼で7000mの
ノースコールをクリアできずリタイアします。
我慢して耐えること、辛いと感じるうちはまだ大丈夫と自分に言い聞かせながら
クレバスを渡りました。
トレーニングの時、このクレパスの50m上部のところで、私の後ろのMさんが
滑落し始めました。命綱がルートロープにつながっていたので、加速しながら
ルートに沿って落ちてくる。私が驚いて後ろを振り向いた瞬間、Mさんが私をけって
二人とも滑落していく。そしてあっという間に前のCさんをけり倒して3人ともクレパスに勢いよく
落ちていきました。もうおしまいかと思ったら3人とも横一列でクレパスに
ぶら下がっていました。あの細いロープがよくもきれずに持ちこたえてくれました。
また3人滑落のすさまじい衝撃をロープ固定支点がよく耐えてくれました。
後ろからあわてて下りてきたガイドが「動くな!動くな!」と
叫びながら一人ずつユマールとピッケルで助けてくれました。
MさんとCさんは泣きましたが、私は泣きませんでした。
クレパスに吊るされたいたときも、たとえ下まで落ちたとしても
ピッケルとアイゼンでいかにこの20mの氷壁を登るかと考えるほど
いたって冷静でした。
クレパスを渡ってもうひと踏ん張りしたらノースコールのキャンプ1です。