脳の血管が詰まることで起きる脳梗塞。命の危険がある上、治療しても手足のマヒや言語障害など後遺症が残ることが多い。一方、最近は薬や医療機器の開発が進み、治療法が大きく進歩している。これらの治療を受けられる医療機関数がまだ十分とは言えない為、国も対策に乗り出した。千葉県柏市の会社員Aさん(74才)は16年3月に東京都港区内の勤務先で、昼食を済ませた後に意識が遠のく感覚に襲われた。取引先への電話に備えて左手に持った書類を落とし、そのまま机に突っ伏した。職場の同僚が119番通報し、駆けつけた救急隊員は、Aさんの様子から脳梗塞を疑い、同じ区内の東京都済生会中央病院へ運び込んだ。同病院脳卒中センターの山田哲医師はCTで脳を調べた。すると首から頭に向かう右内頸動脈が血栓で詰まり、その先へ血が流れなくなっていることが疑われた。山田医師はすぐに血栓を溶かす薬“T-PA”を静脈内に点滴で注入する治療を始めた。この薬によって血栓を溶かして血流を再開させ、脳の組織の回復を図る治療法だ。同時に別の治療の準備も始めた。脚の付け根の動脈からカテーテルを入れ脳血管の血栓を取り除く“血管内治療”だ。日本では2010年から実施されている。T-PAだけでは溶かすことが難しい大きな血栓も除去でき、確実な血流再開を目指せる。この治療では、まず“ステント”という網の目状の器具を、カテーテルを使って折り畳んだ状態で血栓の場所まで送り込む。続いて血栓の場所でステントを広げ、血栓に食い込ませるようにして絡め取る。最後に、血栓と器具を一緒にカテーテルで引き抜く。器具には固まった赤黒い血栓がこびりついていた。
脳梗塞の原因となった血栓は心房細動という不整脈の一種によって心臓内で生じ、それが血の流れに乗って脳に達したものだった。脳梗塞の治療は時間との闘いである。血が流れなくなってから時間が経つと傷みがひどくなって治療での回復が難しくなるからだ。発症から4時間半以内に治療しなければならない。
脳梗塞の症状としては①片方の手足がしびれる ②顔の半分がマヒする ③ろれつが回らない、言葉が出てこない ④片方の目が見えない ⑤バランスがとれず、うまく歩けない などがある。日頃からの注意が必要だ。 (毎日新聞記事より)